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神戸家庭裁判所 昭和49年(少)4660号 決定 1975年1月20日

少年 K・Y(昭三三・一一・三〇生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

非行事実

少年、A、Bの三名は、映画観賞の帰途である昭和四九年一二月二二日午後六時頃、神戸市生田区○○町×丁目×の×番地○宮○ン○ー○「○ン○ラ○」南側出入口前路上を東方に向つて通行中、少年が対面通行中の○○高校一年生○谷○彦(一六歳)に進路を譲つたに拘わらず、いきなり肩をぶつけられ、これをとがめたところ、右眼部を手拳で欧打された上、頭髪をつかまれる等の暴行を受け、これに立腹したAが○谷を制止しようとしたところ、かえつて同人から左頬を手拳で欧打された為、憤怒の情が一時に勃発した三名は、ここに○谷に対して仕返しをしようと互いに意を相通じ、Aは即時雑踏の中を同人を追跡して、前記場所から南西方約七〇メートル隔てた同町×丁目××の×番地寿司店「○喜○」前路上を南進中の同人を発見したが、同人の体格に劣勢を感じて何か攻撃用具を手にする必要があると考え、同店の二軒手前の喫茶店(○エ○カ○」の店舗表に積み重ねられていたコカ・コーラの木箱の中から中味の入つている一九九CC入りのコカ・コーラ瓶二本を抜き取つて両手に持ち、「○喜○」前路上で歩行中の同人の背後から左手に握持しているコカ・コーラー瓶で同人の左後頭部を一回欧打し、さらにその場に転倒した同人の顔面を踏みつけたり、腹部を足蹴りする等の暴行を加え、その頃Bは、同じく攻撃用具にするため、前記喫茶店の表店舗先から中味の入つている一九九CC入りコカ・コーラー瓶二本を抜き取つて両手に持ち少年と駆けつけたところ、同人が立ちあがつて南方に逃走した為、少年を先頭にA、Bの両名がこれに続いて追いかけ、同所から南東方約九○メートル隔てた同町同番地「○電○」南側出入口先路上で同人に追いつき、逃走途中自転車に衝突したりして抵抗力を失い、同店の壁に半かがみの身体を両手で支え、その場にうずくまりそうな同人の背後を三名がとり囲み、左後方からBが左手に握持していたコカ・コーラー瓶で同人の左側頭部を一回強打し、少年が右側方から同人の右腹部を一同蹴り上げ、Aが後方から同人の臂部を一回足蹴りする等の共同暴行を加え、よつて翌二三日午前一時三九分、同区○○○通×丁目××の×番地○戸○十○病院において、硬膜外血腫による脳圧迫により同人を死亡するに至らしめたものである。

適条

刑法二〇五条一項、六〇条

処遇意見

一  少年の非行前歴

調査結果によると、少年は本件共犯Aと小学校五年頃知り合い、以来交友関係があり、中学一年頃Aらと共に大阪、尼崎市内において数件の現金盗事件を起し、児童相談所で訓戒措置を受けたことがある。更らに昨年四月総合職業訓練校に入校して後、二台の原付自転車を窃取し、無免許でこれを運転した為、当庁尼崎支部にて審判を受けた前歴がある(結果は不処分)。

二  本件非行態様

本件は極めて些細なことに端を発し、一人の前途有為な青年の命が失なわれるという世間の耳目をひいた誠に遺憾な事件である(喧嘩の発端については、被害者はもとより、目撃者の証言もないのであるが、その直後数分間を出でない時点でAが単独で暴行を加えている際のAの言語、動作を目撃している数人の警察官に対する供述調書、及び相被疑少年らの各供述を総合するとこのように認定する他なく、他にこれを排斥する証拠はない)。

もつとも少年がいきなり欧られて立腹するのは納得できるが、其の後「○エ○カ○」付近で、興奮した状態の中でBがコカ・コーラー瓶を持つているのを現認しながら、それを制止していないこと、一たん倒れた被害者が立ち上つて逃げるのを率先して追つかけ、Bの欧打をも制止せず、抵抗力を失つている○谷に対して足蹴りを加える等の行為は、単なる仕返しの域を越えており、被害者の態度にも問題があつたこと、事件の翌日新聞報道をみて自首してでた等の事情があるにせよ、本件の重大な結果に対して、相応の社会的責任を免れない。

三  少年の資質、環境等について

鑑別結果によると、少年は内向的性格で、依存心が強い。即ち一人で居ると心細く、人との結びつきの中で安定を求めようとするが、しかしその時でも積極的に自己を主張することなく追従的で、又未だ充分社会性を身につけていない為、自己規制に乏しく、とかくその場のふん囲気に流されて軽佻な行動に出易い。其の他の日常生活も親依存的な構えが強く、自分なりの生活態度を築いていくといつた自律性に欠けている。家庭環境は、一家そろつてカトリック教徒で、日曜日には全員で教会に行く程で、特に問題はない。両親共教育的関心が強く、厳格な躾の気風が窺える。しかしその間隙をぬつて散発的な非行、さらに不純異性交遊など軽佻な行動が見受けられるとこらに問題があろう。

少年は、高校入試に失敗し、職業訓練学校に在籍しているが、怠学して繁華街をぶらつくことが多く、どの程度学業に身を入れていたか疑わしい。両親は、少年の処遇につき現段階では特にこれといつて具体的な指導方策を持ち合わせている訳でなく、単に引取つて指導する旨述べるが、本件が家族成員(特に母)に与えた影響を考えると、果して少年を受容して指導していくだけの心的余裕があるか疑問が残る。

四  結論

上記のとおり、本件は被害者の挑発、積極的な共犯の行動といつた特殊なふん囲気の下での集団心理が大きく作用した機会性の非行と考えられ、少年には散発的な非行歴はあるものの、少年自身の要保護性は今のところさ程大きくはない。しかし今後の少年の為には、その場のふん囲気に流れ易い主体性に乏しい性格の改善、親依存的な考えから脱皮し、自律的な生活態度の獲得がなによりも必要である。更らに本件の重大性から少年に加えられる諸々の社会的圧力は容易に予想し得るところであり、内向的な性格故この圧力に屈し、かえつて人格的な発育がそこなわれる虞も多分にある。従つて今直ちに少年が社会復帰することは相当でなく、この際分類処遇上短期中等少年院(B1)に収容し、少年の自己判断に基づく自律性ある生活態度を獲得させ、併せてその間に家族成員の情緒的安定の回復を待ち、少年を温かく迎え入れる素地を作ることが必要であると考える。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 今井俊介)

参考一 少年調査票<省略>

参考二 鑑別結果通知書<省略>

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